ほうれい線が消える?! ヒルドイド・ビーソフテンへの過剰な期待に困るとき

2019/03/31

雑談 皮膚

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「ヒルドイド」もしくは「ビーソフテン」という製品をご存知でしょうか?

これらは病院から処方される医療用医薬品で、保湿剤としてよく用いられます。ですが、少し前に社会問題になったように、美容目的で処方される場合があるようです。一部ではありますが、まるで「きれいになる」魔法の薬のように思っておられる方もいるようです。今回は、そうした使用者の「過剰な期待」に困ってしまうことがあるというお話です。



ヒルドイドってどんな薬?

いろんな形があります

ヒルドイドとは、ヘパリン類似物質0.3%を主成分とする医療用医薬品で、形状のちがいで、

  • ヒルドイドクリーム0.3%
  • ヒルドイドソフト軟膏0.3%
  • ヒルドイドローション0.3%
  • ヒルドイドゲル0.3%
  • ヒルドイドフォーム0.3%
の5タイプ出ています。

私がいるのは町中にある小さな薬局なので、参考になるかわかりませんが、処方頻度としては、

夏 ローション > ソフト軟膏 ≫ クリーム
冬 ソフト軟膏 > ローション ≫ クリーム


といった感じです。いままでゲル、フォームの処方は見たことがありません。なかでもフォームタイプは、販売開始になったのが2018年6月と、比較的新しいです。

ヒルドイドは主に皮膚科から保湿剤として処方されることが多く、ヒルドイドローションはさらさらとしているので夏場・乾燥が軽いときに、ヒルドイドソフト軟膏は油分を多く含みこってりしているので冬場・乾燥が重いときに、といったように使い分けられている印象です。

ヒルドイドクリームは水分を多く含むので、乾燥が軽いときに使われることもありますが、なぜか私のはたらく地域では処方頻度が低いです。2017年10月にヒルドイドクリームの添加物に変更があったのですが、変更前はチモールという独特のにおいのある成分を含んでいたため、苦手に思う方もいるようでした。そのために処方頻度が低かったのかもしれません。

ヘパリン類似物質とは

ヒルドイドの成分であるヘパリン類似物質は、ムコ多糖の多硫酸エステルです。
…といってもどんなものなのかよくわからないと思いますが、分解してみると

ムコ → 動物性粘性分泌物
多糖 → 糖がたくさん連なったもの
多硫酸エステル → たくさんの場所を硫酸の構造の一部と置き換えたもの

となり、なんとなくわかってくるかな? と思います。

ヘパリン類似物質には以下のような効果があります(ヒルドイド添付文書より)。
  • 血液凝固抑制作用 → 血が止まりにくくなるので、市販薬の説明書には出血しているところに使わないようにと注意書きがあります。
  • 血流量増加作用
  • 血腫消退促進作用
  • 角質水分保持増強作用 → よくある使用目的「保湿」ですね。
  • 繊維芽細胞増殖抑制作用
  • 抗炎症作用 → ヒルドイドゲルのみ記載
  • 鎮痛作用 → ヒルドイドゲルのみ記載
  • 紫斑消退促進作用 → ヒルドイドゲルのみ記載

たくさんありますね。
漢字ばかりたくさん並んでいてわかりにくいので、ヘパリン類似物質を含む市販薬の説明書には、シンプルに「保湿作用・抗炎症作用・血行促進作用」とまとめられています。こうした様々な効果のうち、どれをメインとして商品のパッケージを作っているかで、市販薬のイメージも違ったものになります。

ヒルドイドの歴史

ヒルドイドの歴史を見てみますと、1954年にまずヒルドイドクリームが販売開始されました。当初の効能は「表在性静脈炎、血栓症、瘢痕形成改善」などとあり、ぱっと見た感じ現在のように美容目的で気軽に使う人がいるような雰囲気ではありません。

その後、保湿効果があることがわかり、1990年「皮脂欠乏症」が効能効果として承認され、それまでの整形外科での使用に加え、皮膚科などで広く使われるようになりました。

さらに、1996年にヒルドイドソフト軟膏、2001年にヒルドイドローション、2018年にヒルドイドフォームが発売されたことで、症状や使う部位によって使い分けがしやすくなりました。

また、ヒルドイドゲルのほうは1988年に、清涼感があり、伸ばしやすい形として発売されました。ヒルドイドの当初の効能が保湿ではなかったことを考えると、ヒルドイドクリームに独特なにおいがあることや、スース―する成分が含まれていることもわかります。





ビーソフテンってどんな薬?

ビーソフテンというのは、上記ヒルドイドの後発品(ジェネリック)です。
主成分として、ヒルドイドと同じヘパリン類似物質を含みますが、ヒルドイドに比べて、お値段が少し安くなっています。形状としては、ゲル、クリーム、ローションの3タイプあります。

ここでは、ヒルドイドの代表的な後発品として、ビーソフテンを例にあげましたが、ヒルドイドの後発品は(たとえばヘパリン類似物質クリーム0.3%「〇〇」←メーカー名などの薬品名で)ほかのメーカーからもたくさん販売されています。

なぜ、ビーソフテンを例にあげたのかというと、数あるヒルドイドの後発品のなかでもとくに、ビーソフテンローションを美容目的に使う方が多いと感じるからです。



ヒルドイドの美容目的使用という社会問題

2017年、ヒルドイドの美容目的での使用が話題となり、社会問題となりました。

ヒルドイドローションが、とろみのある白色をした「乳液タイプ」のローションであるのに対し、その後発品であるビーソフテンローションはさらさらとした透明の「化粧水タイプ」のローションです。

そのため、ビーソフテンローションを化粧水代わりに、ヒルドイドローションを乳液代わりに、さらにヒルドイドソフト軟膏を仕上げのクリーム代わりに、美容目的で使う方がいるのも事実というのが実感です(もちろん美容目的ではなく、疾患の治療・コントロールのために使用されている方が大部分だとは思います)。

発端はとある芸能人のブログだったでしょうか? 保険を使うと安く手に入るヒルドイドが、高級美容液なみに効果があるとネット上でうわさになり、美容目的での使用が広まったようです。

そうしたなか、ヒルドイドの美容目的での処方が医療費を圧迫しているのではないか? ということから、一時は保険適用外にすることが議論されていましたが、疾患の治療・コントロールという正しい使い方をしている患者さんから反対があり、見送りになったようです。



ヒルドイド・ビーソフテンへの過剰な期待をするお客さま

ヒルドイド・ビーソフテンは処方頻度の高い医療用医薬品なので、ドラッグストアの店頭では、「ヒルドイドと同じ市販薬ありますか?」「ビーソフテンと同じ市販薬ありますか?」といった質問を受けることがしばしばあります。

医療用医薬品と同じ成分を含む市販薬を、ドラッグストアで求められることはけっしてめずらしいことではないのですが、ヒルドイド・ビーソフテンにかんして驚くのは、その「期待値」の高さです。

よくあるのが、

「シミが消えるんでしょ?」

「ほうれい線が消えるんでしょ?」

といったものです。「(ヒルドイドやビーソフテンを)使っているお友達から聞いたんだけど・・・」という方が多いです。

ヒルドイドやビーソフテンを使って、シミやほうれい線が消えたらすごくないですか? もしそうだったら私が使いたいです。

私自身、以前ひどい肌荒れをして皮膚科を受診し、ヒルドイドやビーソフテンを処方されたことがあります。そのときは肌荒れのために普通の化粧品が使えなくなり、化粧水代わりの保湿剤として使用していましたが、けっしてシミやほうれい線が消えることはありませんでした。残念なことに、ヒルドイドやビーソフテンは、シミやほうれい線を消してくれるような魔法の薬ではありません。

なので、お客さまの期待値が大変高いなか恐縮なのですが、ヒルドイド・ビーソフテンと同じ成分を含む市販薬をご案内しつつ、シミが消える、ほうれい線が消えるの部分は(そのお客さまの状態を見つつ)否定させていただくことになります。



ヒルドイド・ビーソフテンと同じ成分を含む市販薬

ヒルドイド・ビーソフテンの主成分はヘパリン類似物質です。ヘパリン類似物質を含む市販薬には、以下のような種類があります。

  • ヘパリン類似物質のみ
  • ヘパリン類似物質 + 抗炎症成分 + 組織修復成分
  • ヘパリン類似物質 + 血行促進成分 + 組織修復成分
  • ヘパリン類似物質 + かゆみ止め + そのほか
  • ヘパリン類似物質 + 肌を整える成分

数あるヘパリン類似物質を含む市販薬のうち、店頭には3種類くらいしか置いていないのですが、世の中にはどれくらいの製品が出ているのか調べてみました。

PMDAの一般用医薬品の検索ページで成分「ヘパリン類似物質」と入れたところ、43件出てきました(HPでは掲載されていない商品もあったので、販売中止品も含まれているかもしれません)。

ヘパリン類似物質のみ

先にも書いたように、ヘパリン類似物質の効能として、「保湿作用・抗炎症作用・血行促進作用」があります。こうした様々な効果のうち、どれをメインとして商品のパッケージを作っているかで、市販薬のイメージも違ったものになります。

ヘパリン類似物質のみを含む製品の場合、「乾燥肌」をターゲットにしたパッケージの製品と、「傷・やけどあと」をターゲットにしたパッケージの製品があります。ですので、ご自身が乾燥肌のケアをしたいのか、それとも傷・やけどあとのケアをしたいのかで製品を選びましょう。

乾燥肌のケアをしたい方向け製品の例として、gskから販売されている「HPクリーム/ローション」があります。




また、傷・やけどあとのケアをしたい方向け製品の例として、CMでもおなじみ小林製薬「アットノン」コンシーラータイプがあります。





ヘパリン類似物質 + 抗炎症成分 + 組織修復成分

ヘパリン類似物質のほか、抗炎症作用のあるグリチルリチン酸二カリウム、組織修復作用のあるアラントインを含む製品があります。ヘパリン類似物質のみを含む製品と同じく、「乾燥肌」をターゲットにしたパッケージの製品と、「傷・やけどあと」をターゲットにしたパッケージの製品があります。

乾燥肌のケアをしたい方向け製品の例として、小林製薬から販売されている「さいき」シリーズがあります。化粧水・乳液代わりに使いたい乾燥性敏感肌の方におすすめです。





また、傷・やけどあとのケアをしたい方向け製品の例として、CMでもおなじみ小林製薬「アットノンEXジェル/クリーム」があります。





ヘパリン類似物質 + 血行促進成分 + 組織修復成分

以前はこの組み合わせとして、ムヒから「リペアクト」という製品が販売されていたのですが、2014年に自主回収となり、その後販売中止となったようです。ムヒのHPを確認しましたら、「『リペアクト』を販売したものの売れ行きは思わしくなく、じくじたる思いで販売を中止。」と、なんだか応援してあげたくなるようなことが書いてありました。

ヘパリン類似物質 + かゆみ止め + そのほか

ヘパリン類似物質のほか、ジフェンヒドラミンなどのかゆみ止め成分や、冷感刺激成分、組織修復成分など+αの成分が組み合わされた製品があります。+αの成分にかんしては、製品によっていろいろです。ロート製薬から販売されている「ヘパソフトプラス」などがあります。かゆくてかゆくて、ついかきすぎてしまう方におすすめです。





ヘパリン類似物質 + 肌を整える成分

ヘパリン類似物質のほか、荒れた肌を整えるビタミンA油を含む製品があります。ロート製薬から「へパリペア」の製品名で販売されていますが、販売店は限られているようです。

 

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